業務日誌

留学生の家族滞在ビザ申請が難しい理由

こんにちは。
行政書士の高橋浩二です。

今回は留学生の家族滞在ビザ申請が難しくなった話です。
結論を書くと、2017年度から留学生の家族滞在ビザ申請は難しくなりました。

どのように難しくなったのか? ということですが、その前にまずは2016年度までのビザ申請のポイントを書いておきます。
2016年度までのポイントとは書きましたが、2017年度以降もこのポイントは重要なので押さえておいてください。

そのうえで2017年度以降のビザ申請がどのように難しくなったのか? そして申請を通すためにどうすればいいのかという方向性を書いていきます。

2016年度までのビザ申請のポイント

2016年度までのビザ申請の最大の問題は、家族滞在ビザで来日する人の生活費をどうやって用意するのか? という点でした。

説明を分かりやすくするため、具体例を挙げましょう。

【具体例】
日本の専門学校で勉強している外国人留学生Aは、配偶者Bを家族滞在ビザで日本に呼びたいと考えている。
Bの生活費は、Aの父Cが自分の銀行預金から全額支弁する。またAは日本のコンビニでアルバイトをしており、月10万円の収入があるが、貯金はない。

具体例でいうと、Bの生活費を誰がどのように用意するのか? これが問題となります。

仮に私が外国人留学生Aから相談を受けたとすると、Aに対し以下の資料を用意してくださいとアドバイスするでしょう。


用意すべき資料

  1. AとBの結婚を証明する資料
  2. AとCの家族関係を証明する資料
  3. Cの年収を証明する資料
  4. Cの銀行残高証明書
  5. Cの過去1年以上の銀行残高の推移がわかる資料

3の「Cの年収を証明する資料」、4の「Cの銀行残高証明書」、5の「Cの過去1年以上の銀行残高の推移がわかる資料」は3点とも絶対に必要というわけではありません。

1点だけでも申請が認められる可能性は十分あります。
しかし私は後々の手間を考えて、最初から3点とも用意するようお願いしています。

なお、5の「Cの過去1年以上の銀行残高の推移がわかる資料」というのは、たとえて言うなら預金通帳をイメージしてもらえばいいと思います。

単に4の「Cの銀行残高証明書」だけを提出した場合は、Cが現在いくらお金を持っているのか? という点はわかるのですが、Cがそのお金をどのように用意したのか? までは分かりません。

極端な話、第三者からお金を借りて銀行残高を増やしただけかもしれませんよね。

そうではなくて、コツコツとお金を貯めたことを証明するために、「Cの過去1年以上の銀行残高の推移がわかる資料」も用意します。

逆にいうと、突然に意味不明の大金が銀行に入金されている場合は、「Cの過去1年以上の銀行残高の推移がわかる資料」を入国管理局に提出してはいけません。

仮にそのような大金が入金された場合は、そのお金がどのような性質のお金なのかを説明する必要があります。

なお、具体例ではAはコンビニで働いており、月10万円の収入があるのですが、基本的に留学生のアルバイト収入というのは大幅な加点事由にはなりません。
「アルバイトをした結果、貯金が○○円あります。」というのであれば例外的に加点事由になることもあります。

そのためAのアルバイトの給料明細とか、Aの預貯金通帳については、状況を見て提出するか提出しないかを判断することになります。

以上が、2016年度までの留学生の家族滞在ビザ申請のポイントです。

Bの生活費を誰がどのように用意するのか? という点さえ説明できれば、おおむね申請は通っていました。

2017年度以降のビザ申請のポイント

このような状況は2017年度になると一変します。

まず審査日数が長くなりました。
広島入国管理局の場合、従来は1か月ちょっとで結果が出ていたのに、現在は結果が出るまで3か月以上かかります。

そしてことごとく不許可になります。

入国管理局の担当者と面談したときなどは、担当者から「今年度から留学生の家族滞在ビザの申請は厳しくなりました」とはっきりと言われました。

なぜ、こんなにも審査が厳しくなったのでしょうか?

それは2017年度以降、入国管理局は留学生の日本滞在状況を問題にするようになったためです。
具体例でいうと、Aの日本滞在状況を審査するようになったのですね。

実は留学生は1週間に28時間までしかアルバイトをすることができません(ただし夏季休暇・冬期休暇などの長期休暇時は1日8時間働くことができます)。
それにも関わらず、残念ながら週28時間以上アルバイトをする留学生がいるのです。

入国管理局は2017年度からこの点を問題視し、家族滞在ビザの申請にあたり、留学生の日本滞在状況も審査するようになったのです。

具体的にどのような審査をしているのかというと、私の考えですが、留学生の通帳のコピーや母国からの送金の証明書、アルバイトの給料明細書などをもとに、留学生が日本できちんと生活しているのか? 生活費の動きに不自然な点はないか? を審査しているようです。

つまり2016年度まではBの今後の日本滞在費用をどうするか? という点だけを説明すればよかったのに対し、2017年度からはAのこれまでの日本滞在費用も説明する必要が生じたのです。

留学生の過去の生活費も説明しなければならない、という点が以前とは大きく違う点です。

今後は入金・出金の記録を残す必要がある

このような入国管理局の変化に対し、留学生はどう対応したらいいのでしょうか。

留学生が過去の生活費に関する説明しなければならないということは、留学生が過去の生活費に関する資料を保存しておかなければならないことを意味します。

「記録がない」とか「記録を捨てた」という言い訳は通用しません。

留学生の中には、銀行口座を利用せず、現金を自宅に保管して生活費をやりくりしている人がいるのですが、「自宅にお金を保管していた」という説明では申請は通らないですね。

銀行口座を利用している人であっても、留学生がアルバイトをすると大体1か月に10万円前後の収入になると思うのですが、通帳の残高が0円~10万円の間をいったりきたりしている程度の通帳だけを提出したのでは、「本当にこのお金だけで日本で生活できるのですか? 」と疑われ、申請を通すのが難しい印象ですね。

本当にそのような通帳しかないのであれば、過去の祖国からの送金の資料、学費・家賃の支払いなどの領収書を合わせて提出し、日本滞在費をきちんと説明するしかないですね。

かなり具体的かつ詳細な説明が必要です。

説明できないときは? 残念ながら不許可ですね。

アルバイトの掛け持ちに注意

それと留学生の中にはアルバイトを掛け持ちしている人がいますよね。

掛け持ちすること自体は悪いことではないのですが、掛け持ちすると入国管理局に「週28時間の制限を超えているのではないか?」 と疑念を抱かれやすいです。

アルバイトを掛け持ちしている留学生の中には、アルバイト先1の給料をX銀行に、アルバイト先2の給料をY銀行に入金する人がいます。
その上で、家族滞在ビザを申請する際は、X銀行の通帳だけ提出します。

こうすることで入国管理局には「アルバイト先1でしか働いていません」と主張するのですね。

ところがこの方法をとったとしても、入国管理局は留学生がアルバイト先2でも働いていることを知っている可能性があります。

なぜ入国管理局は留学生がアルバイト先2で働いていることを知っているのでしょうか?

実は2007年10月から、企業が外国人を雇用した場合、ハローワーク(厚生労働省)に「外国人雇用状況の届出」を行わなければならなくなりました。

中小企業であれば届出をしていないところがあるのかもしれませんが、大きな会社とかチェーン店では外国人の雇用状況を届け出ている可能性が高いです。

そこで入国管理局は厚生労働省から情報提供を受け、外国人の勤務先を知ることができるのです。

そのため、いくら留学生がアルバイト先を隠そうとしても、隠しきれない可能性があることを理解してください。

以上が現時点での留学生の家族滞在ビザ申請の状況です。

つまりビザ申請が難しい根本的な理由は、一言でいうと「過去を証明する資料がない」という点につきますね。
留学生のなかには、過去の資料なんて捨てた、処分した、という人が多くいます。

そのため2017年の変更に対応できませんでした。

今後は、留学生を受け入れる大学・専門学校が留学生にきちんと記録を残すよう指導することになるのでしょうか。

大学・専門学校の負担が増えそうですね。もちろん行政書士の負担も増えるのでしょうけどね。